2019/10/04 08:11




新進気鋭としてみなされていたY/PROJECT (ワイプロジェクト) は今や、ファッション界において最重要ブランドの一つとしてみなされるようになった。





何故、Y/PROJECTはこうも我々を魅了するのだろうか?

 


Y/PROJECTの魅力について、端的に述べることは難しい。取り扱いを始めて3年が経とうとするが、足を深く踏み入れれば踏み入れるほど、語るべき事は増えていくばかりで、なかなか記事にすることができなかった。



今回の記事では、シーズンのテーマなどはさておき、これまでのY/PROJECTやクリエイティブディレクターのグレンマーティンについて、そして彼らの精神について知っておくべき点について述べたい。








1.  Y/PROJECTの歴史について

まずは、おさらいから。

2008年にヨハン・セルファティが自身の名を冠したブランド"YOHAN SERFATY"をスタートする。当時のコレクションは、彼特有のダークで陰鬱な美学に基づいたものであった。

2010年、"YOHAN SERFATY"から"Y/PROJECT (Y/プロジェクト)" にブランド名を変更。当時の共同代表(現CEO)のGillesとともに立ち上げる。
"Y"がヨハン自身のイニシャルを指す事は明らかだが、ブランド名の由来については語られていない。

2013年、ヨハン・セルファティが癌で死去。

後任デザイナーとして、グレン・マーティンが起用された。



2. グレン・マーティンについて

 



グレンは、"北のベネツィア"と呼ばれる美しい街、ベルギー北西部のブルージュで生まれた。歴史に触れながら美しい物を見て育った。当時のグレンは完璧な美を追い求めていたという。


"僕はべルギーのブルージュの出身なんだけど、ブルージュは街並み自体が博物館みたいな、すごく小さい地方都市なんだ。とても綺麗で、とても簡素な街。子供の頃は、世界がどこもブルージュのように美しい場所なんだろうと思ってた。18歳のとき、ようやくひとりでロンドンに行って、ものすごく落胆した。完璧で美しいものなんて、何もなかった。それからは、ずっと完璧を探したんだ。歴史が頭から離れないし、古典的な美も頭から離れない。学生のときも、その後若手デザイナーになってからも、僕のコレクションは常に完璧で美しかった。全部白で、清潔感があって、優雅で。長い間、古典的な美、理想的な美の様式を捉えようとした。"



大学では建築を学んだ。

卒業後、アントワープへの短期旅行に出かけた際、一目惚れした建造物がある。


それがアントワープロイヤルアカデミーだ。

ウォルターやダークビッケンバーグらアントワープ6をはじめ、マルジェラや、ラフシモンズなど伝説的なデザイナーを輩出した言わずもがなの名門校の"校舎"に彼は惚れ込んだ。
その後、ふとしたきっかけで同校にエントリーする事となる。



入学だけでなく卒業はさらに困難とされる同校に、数枚のスケッチ -それもファッションとは掛け離れたバスルームとキッチンのスケッチ- を持ち込み見事に入学し、そして首席で卒業した。
  




最終学年の途中でジャンポールゴルチエよりオファーを受け、レディースのコレクション並びにG2のジュニアデザイナーを兼任。ゴルチエ本人から伝統的な服作りや仕事に対する姿勢など多くを学んだ。



ゴルチエのアトリエをあとにしたのち、前述のYOHAN SERFATYの一番手のアシスタントを勤め、その後はH&MのWEEKDAYでデザイナーとして働いた。


そして、2012年より自身の名前を掲げコレクションを三度発表した。生産管理からセールス、プレスなど全て一人で行っていたという。



アントワープ卒業から3〜4年の間にクチュールからファストファッション、規模も個人から大企業までと両極端と言える道を渡り歩いた経験が、グレンの価値観を大きく変えた。



" 世界はそれほど古典的じゃない、という事実と折り合いをつけられるようになったのは、ここ数年。だから今は、その反対にも魅力を感じている。 "



2013年四月にヨハンが癌で死去。
Y/PROJECT現CEOのジルからのオファーを受け、クリエイティブディレクターに就任する。
  

当時グレンは、ヨハン特有のダークで陰鬱な美学に基づいたY/PROJECTを引き継ぐ事に躊躇ったという。
そのジャンルはRICK OWENSがすでに確立したジャンルであり、グレンの追い求めるものではなかったのだ。



しかし、グレンは最終的にオファーを受け入れ、ヨハンの意思を受け継ぐ事にも注力しながら、グレン自身の美学をコレクションに徐々に反映してきた。


ヨハンらしいY/PROJECTから離れて、新しいY/PROJECTを作り上げるのに2年程は要したという。


新生Y/PROJECTがスタートして約3年が経過し、
2016年LVMHプライズファイナリストにノミネート。
そして翌年の2017年、LVMHプライズと並び、デザイナーにとっての最大の名誉とされるANDAM賞を受賞。 ( ANDAM賞創立初年の1989年度の受賞者はMARTIN MARGIELA。)


そして今、Y/PROJECTは昨今のファッションシーンにおいて最も重要視されるブランドの一つとして捉えられるに至る。





3. Y/PROJECTの美学。二面性。折衷主義。

ここからが本題だ。


Y/プロジェクトの魅力は、折衷主義(SYNCRETISM/シンクレティズム)にあるとしばしば語られる。


折衷主義とは  -相異なる哲学・思想体系のうちから真理、あるいは長所と思われるものを抽出し、折衷・調和させて新しい体系を作り出そうとする主義・立場-  とされる。


"テーラリングとストリート"、"男性的なものと女性的なもの"、"ユースカルチャーとクラシック/歴史的なもの" といった相反する物事を折り混ぜ調和し、新しいものを創り出す。


当初は完璧な美を追い求めていたグレンだったが、前述したようにアントワープ卒業からの3〜4年の間にクチュールからファストファッション、個人デザイナーから大企業までと相反する道を渡り歩いた結果、完璧な美と相反するものにも魅力を抱くようになった。


"実際のところ、二面性のことしか頭にない。"
とも語っている。


彼の父方の祖父はアーティストで、芸術的で革新的な感覚を持っていた。母方の祖父はベルギー軍の大佐で、超保守的であり伝統的なマインドを持っていた。そもそも、彼はふたつの相反する世界観の中で育ったのだ。


そして、グレンのホームタウンであるブルージュが彼に与えた影響も大きい。


ベネチア同様、ブルージュも荘厳で歴史的な街故にマスツーリズム(過剰な観光産業)に苛まれてきた。


ハッと息を飲むような壮大な歴史的建造物の目の前に、チープなスーベニアショップやアイスクリームショップ、ファストフード店が立ち並ぶ。( 我々日本人にとって、古き良き京都の街並みにファストフード店やコンビニ、安っぽいおみやげ屋さんが立ち並ぶ風景は想像しやすいだろう。 )

"観光産業や近代化が、伝統ある美しい街並みを台無しにしている" と誰しもが捉えるはずだ。


しかしグレンは、その歴史的建造物のもつエレガントでロマンティックな美のみならず、ごちゃごちゃしたネオンライトやスーベニアショップといったチープで醜いものからも魅力を抽出するのだ。


Y/PROJECTの美学はここに存在する。


"ハイカルチャーとローカルチャー"、"テーラードとストリートウェア" "伝統的なものとユースカルチャー"。


どちらか一方ではなく、相反する二つの事象を折衷する。Y/PROJECTの奥行きの深さはここにあるのだ。




(  伝統的なペルシャ柄のカーペットと、現代的でストリート要素の強いサッカーマフラーという相反する要素を組み合わせ、新しいものに昇華させている。 )





4. Y/PROJECTの美学。多様性と主体性。



Y/PROJECTはある単一のターゲットにアプローチすることに興味がない。

多様性と主体性に興味があるのだ。


Y/PROJECTの提案する服は、ストリートウェアからクチュール、テイラードなど多岐に渡る。


ブランドの集団の仲間になるために服を買う といった、そういう消費者が顧客のブランドはもう十分過ぎるほど存在する。


グレンは多様性と主体性に目を向け、人それぞれの個性を際立たせるような服作りを心がけている。


今日はどんな気分なのか、どういう風に着ようか、一つのアイテムから色んなイメージが膨らんだり、色んな着方ができる。

彼らの作る服は、基本的にツーウェイからスリーウェイで、さまざまな着方ができるのは、その多様性と主体性を反映している。

彼らという言葉をあえて使った。Y/PROJECTを作り上げているのはグレン一人ではないのだ。
およそ50人のチームで、それぞれのバックグラウンドは全く違う。グレンがデスクを一緒に使ってるのは、フランス人の男性、アイルランド人の女性、ケニヤ出身の女性、トルコ人の男性。バックグラウンドが同じメンバーは、まったくいないという。


全く同じカッティングでも、男性が着れば素晴らしく男らしく見えて、女性が着れば素晴らしく女性らしく見える。


服を着た人が「どうすれば自分のものにできるか? 自分そのものにできるか?」を自問し、主体的に捉えれるかが大切だとグレンは語る。






( 特定の年齢層やターゲット層を設けず多様性と主体性を尊重する彼らの姿勢を象徴した17SSキャンペーンショット。 )






単一的な方向に向かっていると懸念されるファッションシーン。新しいトレンドが生まれては一同にその方向に向かっていく。
衣服は個を覆い隠すためにあるのだろうか。それとも個を際立たせるためにあるのだろうか。


物事の持つ二面性を評価し、多様性と主体性を掲げるY/PROJECT。

彼らの美学に共鳴し、彼らの提案する価値観を共有したいと思う。

そして、自分の着方で、自分のその日の気分で、Y/PROJECTを着たいと思う。


Edit : Kamimura